スローライフを送った人「ターシャ・テューダー 静かな水の物語」

アップリンク渋谷で「ターシャ・テューダー 静かな水の物語」を見てきた。
ターシャ・テューダー、世界中のガーデナーが憧れる広大なナチュラルガーデンをひとりで作った女性です。アップリンクの上映時間を調べたあなた、残念ながら明日7月7日まで。それに昼間1回限りの上映だし~。

『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』予告編

平日の昼間から?とお思いでしょ。う~ん、派遣は短期契約だったんで終わっちゃったんですね。また次を探さねば、という流浪の民です。まあ、それは置いといて。

ターシャ・テューダー(1915年8月28日 – 2008年6月18日)。アメリカでは絵本作家としての地位が第一だろうけど、日本ではガーデナーとして、またスローライフを実践した人という認識の方が強いのではないだろうか。
私は絵本作家としての彼女を知らなかった。10年くらい前、NHKで彼女のドキュメンタリーが放映され、ブームとなってやっと知った。

ターシャは裕福な名家の出で、父親はライト兄弟に比肩する飛行機や船の設計技師にして実業家、母親は肖像画家であり、二人ともボストンの名家の出、というクリエイティブかつ社交的な家庭環境に育った。ターシャ自身は夜毎のパーティーより、植物や動物を観察しているのが好きな内気な子どもだった。9歳の時、両親は離婚。しばらく両親の親友の家で育つが、のちに母親と暮らすようになる。

23歳で結婚。彼女の旦那は、ハンサムだけど生活力のない優男、って感じだったらしい。本人が映画の中でそう言ってるから(笑)。農業に興味のあるボンボンが、広大な土地を買って農業を始めたけど、挫折して出て行った、というところかな。パンフレットには「農業に興味を失った夫と離婚。子ども達と農場を続けながら、絵本や絵で暮らしを守る」と書いてある。
でも、ターシャもなかなかに意思が強くて頑固そうだから、男ばかりを責められないか(笑)。男と女の間のやりとりは、はたからじゃわからないものねえ。

ターシャのすごいところは、1958年、43歳で旦那に出て行かれたあと、絵本や挿絵で生計を立てながら、当時16歳の長男セスを筆頭に4人の子どもたちを育て上げたこと。シングルマザーで4人もですよ。うん、やっぱり意思が強い女性だと思う。

1970年に出版した絵本「コーギビルの村まつり」、これがベストセラーとなり、夢のスローライフを叶えることができたと映画の中で言っている。
1971年、56歳でバーモント州南部の小さな町はずれの山奥に広大な土地を買い、1800年代の開拓時代のような家をデザインし、大工をしてた長男セスに建ててもらう。ひとりで美しい庭を作り上げ、19世紀のアメリカのような素朴なスローライフを92歳で亡くなるまで実践した。ターシャの庭は世界中のガーデナーが憧れるところとなった。

芍薬や美しい花が咲き乱れるターシャの庭。パンフレットより

19世紀の農家の女性の服装を自ら裁縫して作り、暖炉で薪を燃やしてローストチキンを丹念に作り、花が咲き乱れる庭を作り、寒くなる頃にはたくさんの蝋燭を作り、午後4時半には丁寧に淹れたお茶でティータイムを過ごす。植物や動物を事細かに観察して日記代わりに毎日絵を描く。その観察眼はものすごく正確で、伊藤若冲をふと思い起こした。

人付き合いが苦手で、絵が好きで、自然に癒しを求めて、古いものが好きで、妄想好きで。人形を自作して写真に撮り、ストーリーを作ってたところなど、妄想好き以外の何者でもないなと確信してしまった(笑)。

ターシャが作った人形たち。パンフレットより

ターシャが描いた絵。メルヘンチックに見えるが、実はものすごく正確な観察眼で捕らえられている。パンフレットより

なんだか親近感を感じてしまうのだわね。妄想癖、私もあるある。人付き合いが苦手な分、妄想に入っていくのよね。そういうところ、ものすごく共感してしまう。

映画の中でよく出てきた言葉が「スティル・ウォーター教」。この映画のタイトルともなった、静かな水。
それを「~教」と、宗教のような思いにまで強めて命名する。そういう心持ちで暮らそうとする強い意思がうかがえる。東洋の仙人のようでもあり、単なる頑固なおばあちゃんのようでもあり。20世紀の時代にわざわざ19世紀風に徹底して暮らすって、一歩まちがえばかなり変人でしょ。でも、そこから作り出すものが人の心を捕らえてしまう、チャーミングなおばあちゃんなんだわね。

「思うとおりに歩めばいいのよ。」

うん、ですよね〜。
それをあなたは実践したんですものね。
憧れちゃうなあ。

が、これだけの広い庭に咲き乱れる花の手入れ、どんだけ大変なんだ・・

映画には幸せな部分しか出てこなかったけど、ターシャの死後、遺産相続でもめたみたいだ。長男セスがどれだけ献身的に母親に尽くしてきたか。そしてセスの息子も嫁もね。スープの冷めない距離に住んでいるセス一家の支えがあってこそのターシャの庭だったのに。切ないねえ。。。

Tasha Tudor’s Garden(←放映されたTVの一部です、日本語)



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